「笑い」は元気の源!笑顔を引き出す介護芸人の仕事とは?

テレビやライブなどで活躍するお笑い芸人。お笑いを見てたくさん笑ったあとは、心もスッと軽くなりますよね。「笑い」が免疫機能やストレスに作用するという研究もあり、介護業界でもお笑いを取り入れる流れが生まれています。
今回は、広島でケアマネとお笑い芸人の2つの顔を活かし、「介護芸人」として活躍中の鹿見勇輔さんにお話を聞きました。一見交わることのない「介護」と「お笑い」がどのように融合するのでしょうか?介護とお笑いの関係に興味がある方はぜひ読んでみてくださいね。

★2022年11月12日(土)に、「大切な人に想いを届けるACP(人生会議)」で鹿見さんが講演されます。詳しくは記事の最後をご覧ください。

※インタビューのため一時的にマスクを外しています。
※インタビュー実施日:2022年9月

「鹿見勇輔 福祉のラジオ」番組収録風景

鹿見勇輔(しかみ・ゆうすけ)さんプロフィール
日本福祉大学大学院修了。「めぐみ指定居宅介護支援事業所」(広島市中区)でケアマネジャー(主任介護支援専門員)やデイサービスなどの施設運営をしながら「介護芸人」として活動。介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、防災士の資格を持ち、RCCラジオ「鹿見勇輔 福祉のラジオ」(毎週水曜23:30〜24:00)でパーソナリティーも務める。

今回インタビューを行ったのは、「めぐみデイサービス御幸」(広島市南区)。「広島県でいちばん利用者様から喜ばれる回数の多い介護事業所になる」を行動理念に掲げ、送迎・入浴・食事などのサービスを通じて、社会的孤立の解消や心身の健康を目指し、在宅生活が継続できるように支援を行っています。

★「介護芸人」とは?
介護業界で活躍するお笑い芸人のこと。介護施設で働きながらお笑いの活動をしている人や、「レクリエーション介護士」など介護関連の資格を持っている人もいます。
近年は、「吉本興業」の所属芸人が介護施設のレクリエーションを代行するサービスを行うなど、「お笑い」を取り入れる介護現場も増えています。

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介護芸人になったきっかけを教えてください

第48期尾道いきいき大学「介護予防」講演会の様子

(鹿見さん)子どもの頃からお笑いが好きで、テレビに関わる仕事に憧れていました。学生のときは授業も聞かず、ネタ作りに励んでいましたね(笑)高校卒業後、親に内緒でお笑い養成所「東京よしもとクリエイティブ・エージェンシーNSC」に入ったのはいいのですが…。周りとの実力差を痛感し、本当に芸人になれるのかと悩んでいました。そんなとき、介護の仕事をしていた母親から「広島に帰ってこい」と言われ、母親の勧めで介護福祉専門学校に通うことに。正直言うと、当初は全然やる気がありませんでした(笑)

介護の世界に対し初めて前向きな気持ちになれたのは、専門学校の授業の一環で、デイサービスを見学したときです。レクリエーションに一生懸命励む利用者さんを目にして「お年を召されて不自由なこともあるのに、なんでこんなに頑張れるんだろう」と感動しました。

(鹿見さん)当時は芸人の夢を諦めて投げやりになっていましたから、元気なおじいちゃんたちの姿が余計にキラキラとして見えましたね。見学以来、介護の勉強にも意欲的になり、介護福祉士や社会福祉士、精神保健福祉士などの資格を取得しています。

再び「お笑い」が日の目を見たのは、2013年のデイサービスでの敬老会のときです。初めて披露した落語の「寿限無」がウケて、「介護現場でもお笑いが使えるのでは」と思いました。そこで介護をしながら芸人の経験を活かす「介護芸人」の道を考え始めたのです。

介護芸人の仕事内容は?

(鹿見さん)私は普段ケアマネジャーとして働いているので、月曜日から土曜日までは介護、日曜日はお笑いの仕事をしています。主催のお笑いライブは月1回、リクエストがあれば地域のいきいきサロンや、行政からの依頼でライブに出演することもあり、年間50回程度は舞台に立っているでしょうか。新型コロナウイルスの影響で生のお笑いライブは難しくなりましたが、オンラインのライブ配信に切り替えて継続しています。

お笑いだけでは間口が狭いので、「学び」と「お笑い」をセットにして、地域の講演会に登壇する機会も多いです。講演会では、介護予防やACP(人生会議:もしものときのために、希望する医療やケアを事前に家族や医療チームと話し合っておくこと)などの話をしています。真面目な話をしつつ、ときどき面白い話を挟んでいくと、聞く側も飽きないですよね。

介護芸人の仕事で、いつも気を付けていることは?

(鹿見さん)テレビで見るお笑いはスピードが速く、ほとんどの高齢者はついて来られません。ですから、話すスピードはゆっくり、うまく伝わっていなかったら繰り返すといった工夫が必要になります。お笑いの世界ではタブーとされる「説明」や「繰り返し」が、笑いを引き出すコツになるのは面白いですよね。

舞台に上がったら、まずは自己紹介をします。「目の前にいる人が誰なのか」が分かると安心感につながり、笑いも起こりやすくなるのです。長いくらい丁寧な自己紹介をしてから、ネタに入っていきます。

ネタに関しては、誰もが共通する話題を中心にして、自虐ネタは避けています。私たちにとっては身近な自虐ネタですが、利用者さんの世代では「笑ったら失礼なのではないか」と思うみたいですね。なので、自虐ネタを使うときはあらかじめ「笑っていいですよ」と伝えることもあります。

(鹿見さん)鉄板ネタは、健康や地域に関するものですね。「はい、今から深呼吸します。鼻から吸って…耳から吐きます」のような、分かりやすいネタが意外と笑いが取れます。馴染みのあるメロディが聞こえると、うとうとしていた方もパッと顔を上げることもあるので、歌を歌ってわざと音を外すといったネタもよく披露しています。

その場のお客さんの雰囲気を見ながら、予定していたネタを急遽変更することも珍しくありません。瞬間的な判断が求められますが、そこが介護芸人の楽しい部分でもありますね。

介護芸人のやりがいは?

(鹿見さん)介護とお笑いの二足のわらじを履いている私は、利用者さんから見ると「お笑いをやっている介護のお兄ちゃん」です。その気軽さから、困ったときに相談されることも多く、頼りにされていると感じたときはうれしく思います。

一度は諦めたお笑いを、介護現場で活かしている私は、いつも「介護に生かされている」と思っています。介護芸人を名乗れるようになったのも、人から評価してもらったからです。舞台で笑いを取ること、人から相談されること、どちらも自分にとっての生きがいですね。

今後の目標を教えてください

鹿見さんのイメージキャラクターを近所の方が描いたポスター

(鹿見さん)地域の方に向けてお笑いをすることもあるので、困ったときの身近な相談役になっています。ただ、事態が深刻化した状態で相談を持ち掛けられることもあり、「もっと早く相談してくれていたら…」と悔しく思うときが多いです。

地域包括支援センターがありますが、そもそも存在を知らない方や、「相談したらお金がかかるかも」と相談をしない方もいます。歯がゆいですが、高齢者の方から発信がないと、支援の手が差し伸べられないのが現状です。

私は、高齢者の方たちが元気で暮らせる社会を目指しています。そのために、私たちのようなスタッフや地域とのつながりを作っていくことが大切です。つながりがあれば、何かあったときにすぐ相談でき、事態の悪化を防げますよね。

元気の要は、人と話したり、笑ったりすることです。お笑いライブや講演会を通してつながりの場を提供し、高齢者の方が元気でいられる社会を作っていきたいと思っています。

これから介護芸人を目指したい方、興味がある方へメッセージをお願いします

(鹿見さん)お笑い芸人を目指す方は、人と話すのが好きな方が多いですよね。相手と会話が続けられる人材は介護現場では重宝されるので、安心して介護の世界に飛び込んでほしいです。施設の運営者でもある私としては、やる気がある方、誠実な方に来てほしいと思っています。たとえ資格を持っていなくても、誠実に対応すれば心が伝わります。親身に話を聞いてくれる、優しく接してくれる方を、利用者さんは求めていますしね。

芸人としての仕事を得るには、社会人としてのマナーが身に着けることが重要です。芸人に仕事を依頼する方は、会社の社長さんや公共の施設で働いている責任者さんたちが多いですから。介護芸人を目指すなら、最低限のビジネスマナーを知っておいて損はありませんよ。

鹿見さんのインタビューを終えて

介護芸人としてさまざまな場で活躍する鹿見さん。笑いの力を活かし、今日も利用者さんの笑顔を引き出しています。レクリエーションのネタに悩んでいる方、介護芸人の仕事に興味がある方は、ぜひ鹿見さんのお笑いライブや講演会に参加してみてはいかがでしょうか?

★2022年11月12(土)、ACP(人生会議)についての講演会で、鹿見さんが出演されます。

取材協力【有限会社めぐみ】

所在地広島市中区西川口町4-31
電話番号082-532-6800
公式サイトhttp://megumi-care.co.jp/
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