老人ホームで提供される食事形態とは?一覧にしてくわしく解説

高齢になると体のさまざまな機能が低下し、噛む・飲み込む・消化するなど、食事に関わる機能も衰えていきます。高齢者に食事提供をする場合には、加齢によって起こる体の変化に対応した食事形態が重要です。ここでは、老人ホームなどで提供する高齢者への食事形態について解説していきます。普通食が食べられない方も楽しんで食事がとれるよう、介護食についての基本的な知識を身に付けておくと、さらに寄り添った介護ができるでしょう。

高齢者食と介護食の違いとは?

老人ホームなど、多くの方が食事をともにする場所では、それぞれの利用者さんに合わせた食事形態での食事提供がされます。まずは、高齢者食と介護食の違いについて解説しましょう。

高齢者食

高齢者食とは、年齢を重ねることで起こる体の変化に対応した食事のこと。

一口大に切ったり、隠し包丁を入れたりすると、咀嚼力が低下した方でも食べやすくなります。食欲が低下しがちな方には、彩りや盛りつけ、形状など見た目に配慮したり、香りで嗅覚を刺激したりするなど、五感に働きかけて食べる意欲を引き出すのもいいでしょう。

このように、高齢者食とは、特別な食事を用意するのではなく、ちょっとした工夫で高齢者でも食べやすい内容にした食事のことを指します。

介護食

食事機能が低下した方でも安全に食事ができるよう、調理方法を工夫した食事のこと。

噛む力や飲み込む力に合わせ、やわらかさを調整したり、とろみをつけたりして、利用者さんの状態に合わせることが重要です。介護食の調理方法は、咀嚼力や嚥下力を考慮し、きざみ食・ソフト食・ミキサー食などいくつかの種類に区分されます。

このように、弱った機能を補うような工夫を施し、高齢者食よりさらに食べやすくした食事が介護食です。

介護食に向いている食材とは?

介護食に使う食材は、以下のようなものが向いています。

魚の場合:マグロやカレイ
肉の場合:やや脂身がある薄切り肉
野菜の場合:かぼちゃや長芋、なすび、冬瓜 など

ごぼうや野菜の茎部分など繊維が硬い食材は、なるべく先のほうのやわらかい部分を活用しましょう。こんにゃくやイカなど弾力のある食材は、切り方や調理方法を工夫すれば食べやすくなります。

ひき肉やパン、焼き魚などまとまりがないものやパサつきやすいものは、とろみをつけたり、つなぎを利用したりして、口の中でまとめやすくする工夫が有効的です。

調理担当のスタッフではない場合でも、老人ホームで介護食を提供する際には注意が必要。食材の特性を知り、どのようにすれば食べやすくなるのかという知識を持っておくことは大切でしょう。

利用者さん一人ひとりの口腔状態を知ろう

加齢や病状などに伴って、高齢者の口腔状態は一定ではなく、常に変化していきます。多くの方が入居する老人ホームでは、利用者さん一人ひとりの口腔状態をきちんと把握し、適切な食事形態で提供することが重要です。ここでは、歯や口、喉がどのような状態であるかを見極めるポイントを解説します。

歯の状態

噛み合わせや咀嚼力、噛み切る力はあるかを中心にチェックしましょう。歯の残り本数や、入れ歯・義歯の有無によっても咀嚼力や噛み合わせは変わってきます。噛めていなければ、食事形態を変更する必要があるため、こまめな確認が重要です。

口の状態

口を閉じて咀嚼できるか、喉の奥に食材を送りこめているか、などをチェックしましょう。口の状態を確認する際には、唇や舌の動きをしっかり見るのがポイント。いつまでも食材が口に残っているときには、うまく咀嚼できない、口の中で食材をまとめられないという可能性もあります。

喉の状態

食材をスムーズに飲み込めているかどうかチェックしましょう。利用者さんの状態に合わない食事形態だと、なかなか食事が進みません。食事時間やペースも気にかけながら確認しましょう。

食事形態一覧

ここでは、老人ホームで提供される食事形態を一覧にして、くわしく解説します。

普通食

口腔状態が良好で、特別な制限なく、健康な方と同じ内容の食事。普通食を食べられる利用者さんが、いつまでも普通食を続けられるような努力が大切です。

対象入居者特別な制限なく、健康な方と同じ内容の食事がとれる方
特徴バランスの良い食事がとれる
代表的なレシピ魚料理、肉料理など一般的な食事
メリットバランス良く、さまざまな食材を食べられる
デメリットなし

きざみ食

口に入れた際に、噛みやすいよう細かくきざんだ食事のこと。少し咀嚼力は低下しているけれど、口や喉の状態はあまり問題ない方向けの食事形態です。

対象入居者咀嚼力が低下している方、口を大きく開けづらい方
特徴通常の食事や軟飯を噛みやすいようきざんでいる
代表的なレシピ親子丼、うどん、おひたし
メリット噛み砕く負担が軽い
デメリットばらけて食べにくい、誤嚥につながる可能性がある

ソフト食

舌でつぶせるくらいまでやわらかく調理した食事。食材の形状は残し、煮込んだり、ミキサーにかけて固めたりして調理します。

対象入居者咀嚼力・嚥下力が弱っているものの、舌や歯茎を使って食材をつぶす力のある方、消化不良を起こしやすい方
特徴食材の形状を残し、歯を使わず舌や歯茎でつぶせる
代表的なレシピ肉じゃが、豆腐ハンバーグ、お好み焼き
メリット咀嚼時の負担が軽い
デメリット見た目に工夫が必要な場合がある

ミキサー食

食材をミキサーにかけて、液体状にした食事。誤嚥しないために、とろみをつけることもあります。

対象入居者咀嚼力がほとんどなく、嚥下力も低下している方
特徴食材をミキサーにかけて、ポタージュのような液体状にする やわらかい粒状を含んだり、とろみを加えて飲み込みやすくしたりする
代表的なレシピポタージュ
メリット噛む必要がなく、飲み込みやすい
デメリット水分を含むため、誤嚥に注意が必要

ピューレ、ペースト食

ミキサー食よりさらに飲み込みやすくするために、食材をペースト状またはゼリー状にした食事

対象入居者嚥下力が低下しているが、飲み込むことができる方
特徴粒が少なく、なめらかな状態 水分は少なめでさらさらしすぎず、まとまりやすい状態にしてある
代表的なレシピポタージュ
メリット噛む必要がなく飲み込みやすい
デメリット見た目に工夫が必要

ムース、ゼリー食

咀嚼力や嚥下力がほとんどない方でも食べることができ、消化のしやすさに考慮した食事

対象入居者咀嚼力がほとんどなく、嚥下機能もほとんど機能していない方
特徴粒がなく、飲み込みやすいようゼリー状になっている
代表的なレシピゼリー、プリン
メリット咀嚼力や嚥下力がなくても食事がとれる
デメリット見た目に工夫が必要

食事形態の変更基準、タイミングは?

加齢により体の機能が低下するのは仕方ないことですが、体の機能は使わなければおのずと衰えていきます。言い換えると、積極的に使うことで機能の低下を予防することも可能なのです。

食事提供の場合でも、咀嚼力や嚥下力が衰えてきたからといって、すぐに食事形態を変更するのは、利用者さんにとって必ずしも良いとは限りません。老人ホームなど多くの方が過ごす場所では、食事は憩いのひとときでもあります。食事の時間を楽しむためには、自らの機能を積極的に使い、適度に口や喉を使って機能回復を目指すことも大切です。そのため、食事形態の変更基準は明確なものがあるわけではありません。利用者さんの状態をしっかりと確認しながら、必要に応じて段階的に行うことが重要です。

食事形態は利用者さんの状態に合わせた適切な判断が必要

老人ホームでの食事は、利用者さんそれぞれに合わせた食事形態の介護食が提供されます。利用者さんの状態に合わせた食事提供は大切ですが、きざんだりやわらかくしたりすることは、かえって機能を低下させてしまう可能性も。身近にいる介護スタッフが、利用者さんの状態を適切にチェックすることで、安全に美味しい食事をとることにもつながるのです。

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