認知症と軽度認知障害はどう違う?介護現場での対応策もチェック

この記事では、高齢者の軽度認知障害について、認知症との違いを例に挙げながら分かりやすく解説していきます。軽度認知障害は早期に対策をとることで、回復または進行を遅らせることが可能です。介護現場で「利用者さんの様子がいつもと違うな」と早い段階で気が付き、適切な対応がとれるようにしましょう。軽度認知障害の初期症状や、介護現場で求められる対応・介護サービスについてご紹介していきます。

軽度認知障害とは?

軽度認知障害とは、日常生活に大きな支障がない程度で記憶や判断などの能力が低下することです。軽度認知障害は、英語のMild Cognitive Impairmentの頭文字をとって、「MCI」とも呼ばれます。

加齢にともない「物忘れ」などは増えていくものですが、軽度認知障害はその範囲を超えて認知能力が低下してきている状態です。軽度認知障害は認知症と健常な状態の中間、または認知症の前段階とも呼ばれます。厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会(第78回)の資料によると、2012年の時点で高齢者の約4人に1人は軽度認知障害または認知症であることが判明しました。

軽度認知障害の種類はひとつではありません。アルツハイマー病によるMCIや血管性疾患によるMCI、うつ病によるMCIなど、脳の病気や障害など原因によってさまざまな種類があります。

軽度認知障害と認知症の違いとは?

軽度認知障害と認知症の違いを分かりやすく解説していきましょう。

軽度認知障害

  • 食事や入浴など基本的な日常生活動作(基本的ADL)には支障がない
  • 買い物や家事など、複雑な日常生活動作(手段的ADL)には支障がある
  • 対応によっては正常なレベルに回復することもある
  • 認知症に移行する場合がある

認知症

  • 日常生活に支障がある(基本的ADL、手段的ADLともに)
  • 高齢者に多いアルツハイマー型に関しては進行を遅らせることができても完治は難しい

ここでおさえておきたいポイントは、軽度認知障害は回復するケースもあれば認知症に移行するケースもあるということ。早期に気付いて対策をとることが重要です。

軽度認知障害の初期症状とは?

ここからは軽度認知障害を早期段階で発見するため、初期症状について簡単にご紹介します。

軽度認知障害では以下のようなサインが表れます。

<軽度認知障害のサイン>

  • 体験したことは覚えているが、詳しく思い出せない
  • 同じ話や同じ質問を繰り返す
  • 物を置き忘れる、しまい忘れる
  • 家事がスムーズにできなくなる
  • 趣味や外出することに消極的になる

加齢による物忘れと軽度認知障害の違いを見極めることは簡単ではありません。「いつもと違う」、「加齢による物忘れにしては程度が重い」と感じたら、軽度認知障害を疑いましょう。受診するかどうか迷ったら、広くインターネットなどで公開されている認知症のチェックリストなどに加え、上記の軽度認知障害の初期症状のサインもぜひ参考にしてください。

ちなみに、認知症と軽度認知障害の症状の大きな違いは本人に自覚があるかないかです。認知症では、本人に物忘れの自覚がないケースがほとんど、という特徴があります。

介護現場での軽度認知障害の対応は?

軽度認知障害は正常な状態に回復するケースと、認知症へ移行するケースがあることを前項でご紹介しました。厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会(第78回)の資料によると、軽度認知障害がある方のうち年間10~30%が認知症へ移行しているそうです。しかし、対応によっては認知症への進行を遅らせることも期待できます。介護の現場では、軽度認知障害は「早期に発見して対応することが回復または認知症への移行を防ぐポイント」となることをおさえておきましょう。

オレンジドクターへの受診をサポート

軽度認知障害には明確な診断基準はありませんが、医師による認知機能検査や身体検査、MRI検査やCT検査などを経て判断されます。認知症の早期発見や診断体制は、国を挙げて整備が進められている最中です。

広島県では、物忘れや認知症に関する相談を受け付けている医師を「オレンジドクター(もの忘れ・認知症相談医)」として認定しています。地域のオレンジドクターが在籍する病院を日頃から把握しておくと、軽度認知障害の傾向がみられる利用者さんやそのご家族にオレンジドクターがいる病院がすぐ紹介でき、役に立つでしょう。

オレンジドクターのリストは、広島県のホームページからダウンロード可能です。
※広島県ホームページ 認知症対策 もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/ninntisyoutaisaku/1183708415424.html#daunnro-do

運動・食事・認知トレーニングでアプローチ

介護現場でできる軽度認知障害予防のための具体的なアプローチ方法としては、運動・食事・認知トレーニングのサポートが挙げられます。

<運動>

軽く息が上がる強度で長い時間行える有酸素運動は、体内に酸素を持続的に取り入れて脳の血流を増加させ、脳を若く保つことが分かっています。物忘れの防止にもつながるそうです。運動の例としては、散歩などのウォーキングや、ジョギング・ヨガ・エアロビクス・水泳などがあります。

さらに効果を高める方法として、ふたつの動作を同時に行うデュアルタスクをご紹介しましょう。ふたつの動作を同時に行うと脳の血流量がアップし、より認知症へのプラスの効果が期待できるそうです。レクリエーションのひとつとして、しりとりをしながらウォーキングする計算をしながらヨガをする、といった運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。

<食事>

食生活の基本とされるバランスのとれた食事は、認知症予防の観点からも重要です。介護施設で食事を提供するシーンがあれば、さまざまな食品を取り入れたメニューを提供する、利用者さんが残さず食べられるよう声掛けする、といった工夫を。利用者さんとの会話の中で、偏った食生活とならないよう助言することもプラスとなるでしょう。

意識して摂取したい食品としては、DHAやEPAを豊富に含む魚や、ビタミンが豊富な野菜・果物類が挙げられます。アーモンドやくるみといったナッツ類も適度に取り入れると良いでしょう。

<認知トレーニング>

脳の記憶力や集中力を鍛えることも大切です。「認知トレーニング」と表現すると難しい印象となりますが、カードゲームや楽器の演奏、会話なども立派なトレーニングとなります。オセロ大会や将棋大会など遊び感覚で参加できる脳トレ系のレクリエーションを企画したり、利用者さん同士が気軽に趣味などを通じて交流できる場を整えたりしても良いですね。

認知症や軽度認知障害は介護現場でもサポートを

軽度認知障害は、医療の介入と食事や運動といった生活習慣の改善で回復や進行を遅らせることが期待できます。早期に発見することが重要となるので、介護施設では利用者さんの物忘れなどの変化に気を配り、思い当たることがあればご家族へご報告できると良いでしょう。認知症も軽度認知障害も、できる範囲でサポートしていきたいですね。

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