「福祉ネイリスト」として広島で活躍する中尾将吾さんにインタビュー!

「不要不急」ではないけれど、生活に彩(いろどり)を添えてくれるのが美容。髪型や服装など、身なりを整えると気分も上がりますよね。年齢を重ねても、体に障害があっても、気軽におしゃれを楽しみたい…そんな願いを叶えてくれる「福祉ネイリスト」という仕事をご存知ですか?
今回は、広島で福祉ネイリストとして活躍する中尾将吾さんにお話を聞きました。30代で転職した理由や福祉ネイリストのやりがい、大切にしていることなどを語っていただきました。福祉ネイリストの仕事に興味がある方は、ぜひ読んでみてくださいね。

プロフィール

中尾将吾さん
医療機器メーカーの営業職を経て、2020年から福祉ネイリストとして開業。現在、訪問ネイルケアサービス「ファミーユ」代表、日本保健福祉ネイリスト協会で理事を務めるなど活躍中。

※福祉ネイリストとは?
高齢者介護施設や福祉施設などを訪問し、ネイル施術を行うネイリストのこと。「日本保健福祉ネイリスト協会」の認定校でカリキュラムを修了することで認定される民間資格です。
高齢者や障害のある方、自宅療養中の方などが対象です。施術ではマニキュアを使用し、施設や病院ですぐに落とせるように配慮。ネイルを通して笑顔を引き出す化粧療法として、生活の質(QOL)を向上させるきっかけにも役立っています。

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福祉ネイリストの仕事を始めたきっかけは?

(中尾さん)私が20代の頃、祖父が認知症を患い、母が苦労しながら介護する姿を見たのがきっかけです。大変そうな母の姿を見ながらも、私は何も手伝えませんでした。介護は約3年間にわたり、祖父が亡くなったときは寂しい思いと、介護から解放された母を見て、ほっとした思いが複雑に入り混じっていましたね。

祖父が認知症になった頃、私はアパレルや医療機器メーカーの営業職の仕事をしていました。仕事で京都や滋賀、大阪、岡山を転々とする中、35歳になって「今の仕事を続けるか、転職するか」と考え始めたときです。偶然ネットで、吉備国際大学の准教授が「爪のケアが認知症の問題行動を軽減させる効果が期待できる」と発表した研究結果を見かけました。

認知症を患うと暴力や暴言、徘徊などの“問題行動”が起きることがあるのですが、「ネイルを続けていると、笑顔が増え、問題行動が減った」と明らかになったそうです。問題行動が減れば、介護者の負担を減らすことにもつながりますよね。そんな中で、介護施設を訪問してネイル施術をする「福祉ネイリスト」の存在を知りました。介護に苦労する母の姿を見ていた経験もあって興味を惹かれ、思い立って福祉ネイリストの道に進みました。

福祉ネイリストの仕事をする中で、難しかったことは?

(中尾さん)高齢者施設の利用者さんの多くは80~90代で、ほとんどの方がネイルをした経験がありません。爪へのコンプレックスも相まって、ネイルをためらう方は多いです。スタッフさんの力を借りながら、「やってみませんか?」と声をかけるところから始まるのは、一般的なネイリストと比べると難しい部分かもしれません。お体に麻痺のある方もいらっしゃるので、ときには背面から施術する場合もあり、ちょっとコツがいります。

そもそも、施設を訪問してネイルをするには、施設長さんの許可が必要です。提案をしても「ネイルなんて」と断られるケースは少なくありません。施設長さんは年配の男性が多く、ネイルに馴染みがない方も多いですからね。髪を切ったり、髭を剃ったりする美容・理容サービスは受け入れてもらいやすいですが、ネイルは「不要不急」と思われがちです。

またご家族の中にもネイルへの抵抗感がある方がいて、息子さんから「いい年なのにおしゃれなんて」と言われたために、せっかくのネイルを取ってしまった方もいました。何歳になってもおしゃれは心を躍らせてくれるものです。多くの方にネイルの魅力を理解してもらうには、まだまだ努力が必要だなと思わされます。

福祉ネイリストの仕事をされる中でうれしかったこと、やりがいを感じることは?

(中尾さん)最初は「ネイルなんて」とためらう方がほとんどですが、爪が綺麗になると皆さん笑顔になっていきます。髪やメイクは鏡を見なければ分かりませんが、ネイルは手元のおしゃれなので、自分でいつでも確認できますよね。ふとした瞬間に目に入る、彩った爪は気持ちを明るくさせてくれるものです。利用者さん同士がお互いに爪を見せ合って、「綺麗ね」と笑っているのを見ると、私まで笑顔になれます。

同じ施設に訪問し続けていると、最初に会ったときは身なりに気を遣っていなかった方が、髪を整えたり、服装に気を遣ったりと、如実に変化が見られるときもあります。ネイルをきっかけに、「〇〇してみようかな」と前向きになる姿を見られるのは、何よりうれしいですね。初めは落ち着いた色を選んでいた方が、「今日は赤色に塗って」と鮮やかな色を頼まれるときも、心が躍ります。

基本的にネイルは女性が対象ですが、男性に施術することもあります。爪を磨いたり、透明なマニキュアを塗ったりすることが多いです。以前、「ギターの演奏会があるから爪を綺麗にしてほしい」と男性の利用者さんから頼まれたことがありました。ギター演奏はもちろん、ネイルも大好評だったようです。ネイルが誰かの生活を豊かにできるときは、大きなやりがいを感じますね。

福祉ネイリストの仕事をされる中で大切にしていることは?

(中尾さん)爪を美しく仕上げる技術も大切ですが、特に大切にしているのは利用者さんとのコミュニケーションです。年を重ねると、人と話す機会が減って、部屋にこもりがちな方もいますよね。マニキュアを塗って乾かすまで、大体1時間程度。施術中に会話を楽しんでもらうことを、何より重視しています。コミュニケーションを取る上で、心掛けていることは最低3回お名前を呼ぶこと。名前を呼ばれると「自分に関心を持ってくれた」とうれしくなりますからね。

ネイルの施術は、手と手が触れ合います。どんなに爪が綺麗に仕上げられても、心の触れ合いを楽しんでもらえないのでは意味がありません。心と心が触れ合えば、笑顔あふれる楽しい時間になります。ネイルと福祉ネイリストとの交流を通して、前向きな気持ちになってもらえるように力を入れていきたいです。

これからの目標や取り組みたいことは?

(中尾さん)私1人でネイルできる人数は限りがあります。ですので、訪問ネイルサービス「イロドリのおくりもの」を全国に広めていくことが目下の目標です。「イロドリのおくりもの」は訪問ネイルをプレゼントするサービスです。依頼を受けたら、福祉ネイリストが指定の場所に伺い、施術を行います。現在は全国15エリア(北海道、福島、東京、千葉、埼玉、栃木、茨城、長野、岐阜、愛知、三重、大阪、岡山、広島、沖縄)で展開中です。コロナ禍でいろいろな制限がある今だからこそ、真心のこもったサービスを届けたいと思っています。

福祉ネイリストはまだまだ世の中に広く認知されていません。美容師と聞いてすぐイメージが浮かぶように、福祉ネイリストが誰もが知る仕事になるように、社会的な確立を目指していきたいです。また福祉ネイリストとして十分な収入が得られるよう、経済的な確立も叶えたいと考えています。

福祉ネイリストのお仕事を目指している方や興味がある方へのメッセージ

(中尾さん)福祉ネイリストの仕事は、笑顔や勇気を与えます。たとえネイルの技術が80点でも、一生懸命関わろうとする「思い」があれば、私にとっては100点です。ネイルの技術は練習を重ねて磨いていけます。施設訪問の場合は、利用者さんの評判はもちろん、スタッフさんの評判も良くなければ次回も呼んでもらえません。あたたかい心と確かな技術で、両者の信頼を獲得していけばいいですよ。

現在、福祉ネイリストとして活躍する人の中には、子育て中のママもいます。1~2時間あれば施術できるので、時間に都合がつきにくい方もサッと働ける面が魅力です。私のスクールでは、生徒さんの予定に合わせて開講日を設定しています。仕事や育児がある方も都合がつきやすいので、興味がある方はぜひお問い合わせください。

福祉ネイリストである中尾さんのインタビューを終えて

家族の介護の経験から、福祉ネイリストの道を歩んだ中尾さん。親しみのある笑顔や口調から、利用者さんの心を掴んでいるのだろうと感じました。中尾さんのスクールには、「ネイリストとしての幅を広げたい」「福祉の仕事に興味がある」と福祉ネイルを学ぶ方もいます。ネイルを通して福祉・介護のお仕事に興味がある方は、ぜひ一歩踏み出してみませんか?

【訪問ネイルケアサービス ファミーユ】

電話番号080-1948-6273(中尾さん)
出張ネイルギフトサービス「イロドリのおくりもの」公式サイトhttp://irodori-gift.com/
公式Instagramhttps://www.instagram.com/nakao_famille/?hl=ja
JHWN認定スクール広島校公式サイトhttp://hirosima.fukushinail.jp/  

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