不自由さを楽しむ!訪問美容師の難しさとやりがいとは?

高齢や病気で美容院に来られない方のために、居宅や施設などに出張し美容院とほぼ変わらないサービスを提供する訪問美容師。今回は広島県で30年近い訪問理美容の歴史を持つ「ビューティヘルパー」所属の訪問美容師・中川裕子さんにお話を聞きました。「私が寝たきりになったら髪を切りにきてね」というお客様の言葉で訪問理美容の必要性に気付いた中川さん。利用者さんが思わず涙してしまったエピソードは必見です。訪問美容に興味がある方や理美容師資格を活かしたい方はぜひ読んでみてください。

※インタビューのため一時的にマスクを外しています。
※インタビュー実施日:2022年10月

中川裕子(なかがわ・ゆうこ)さんプロフィール
美容・理容の訪問業務「ビューティヘルパー」(広島市佐伯区)の訪問美容師。美容師の経験を活かし、施設や病院、自宅などを訪問し、美容サービスを提供。

今回インタビューを行った「ジョイフル・ファミリー観音台」は、広島市佐伯区にある介護付き有料老人ホームです。訪問理美容サービス「ビューティヘルパー」は、同施設を運営するジョイフル・ファミリー株式会社によって運営されています。

訪問美容師とは?
病気や高齢などのため、美容院に足を運べない方のために施設や病院、ご自宅などを訪問し、ヘアカットやカラーなどの美容サービスを提供する仕事です。寝たきりの方や、麻痺、拘縮のある方への施術も行われるため、施術技術だけでなく、介護の基礎知識や特別な配慮が必要とされます。

▼関連記事

訪問美容師になったきっかけを教えてください

(中川さん)結婚後、知人から「美容師をやってみない?」と勧められたことがきっかけです。元々は別の仕事をしていて、美容師の仕事に興味があったわけではありませんでした(笑)ですが、やっていくうちに楽しくなってきて、徐々に固定のお客様も増えていきました。

ある日、常連のお客様から「私が寝たきりになって美容院に行けなくなったときは、家にカットに来てほしい」と頼まれたんです。そのとき初めて「お客様がお年を召していけば、美容院に足を運んでいただけなくなる日もくるのか」と気が付きました。それから「訪問施術ってどうすればできるのだろう?」と考えるようになります。

訪問施術中の中川さん

(中川さん)訪問美容をより意識するようになったきっかけは、子どもの入院です。長期入院になると髪も伸びてきて、誰かがカットしなければなりませんよね。訪問美容サービスを導入している病院ではなかったので、看護師さんや家族がカットすることが一般的なようでした。

美容師としての技術はありますが、病院でカットした経験はもちろんありません。いつもと違う環境で、試行錯誤しながら洗髪やカットしていきました。すると、私の姿を見た看護師さんが「そんな風にやればうまくできるのね」と感心していたんです。私自身も、病院で施術できた手ごたえを感じていました。そんな出来事もあって、訪問美容の道に進むことになります。

訪問美容師の仕事内容は?

仕事に向かうときのスタイル

(中川さん)施設や病院を訪問してカットやパーマ、カラーなどの美容サービスを提供しています。訪問数としては、高齢者施設が6~7割、病院が2割、ご自宅に伺うのは1割くらいですかね。理容師がいれば髭剃りもできるのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大してからは休止しています。

仕事へ向かうときは、シザー(はさみ)、カットクロス、カラー・パーマの薬剤、消毒用品などをケースに入れて運びます。ウォータータンクも必要なので、旅行鞄2つ分くらいの大荷物です(笑)

お仕事道具

(中川さん)新型コロナの感染が拡大し始めたころは、訪問施術がまったくできませんでした。広島県の緊急事態宣言が解除され、ようやく行けたときには、利用者さんの髪もとても伸びていて、誰か分からない状態で…。久しぶりに髪を整えられて、皆さん喜んでおられましたね。

ビューティヘルパーさんが開設されたときの理美容業界はどんな様子でしたか?

(中川さん)「ビューティヘルパー」が訪問理美容サービスを始めたのは1993年です。開設当初は今のように高齢者施設も多くなかったので、広島県内の施設を飛び回っていたと聞いています。また、当時はまだ訪問理美容サービス自体もほとんどなく、ビューティヘルパーは先駆けだったのではないでしょうか。今は高齢者施設も増えて、決まった地域を回れるようになっていますよ。

訪問美容師の仕事で、いつも気を付けていることは?

(中川さん)寝たきりの方の施術は、2人がかりで慎重に行います。一方が背中に空間を作り、安定する位置で支えます。施術者は点滴や医療器材に気を付けながら、カットしなければなりません。シザーが難しいときはバリカンを使うようにしています。一般的な訪問美容では20分程度で施術を済ませますが、寝たきりの方の場合は体勢を保つのが難しいので、なるべく20分以内に終わらせるようにしています。また、高齢者の方は皮膚も弱いため、櫛で髪をとかすときも注意が必要しなければなりません。

雰囲気づくりに関しては、オルゴールの音楽をかけて、リラックスできるようにしています。きれいなランチョンマットの上に施術道具を広げるだけでも、「素敵ね」と言ってくださいますよ。

訪問美容師のやりがいは?

(中川さん)一番は感謝されるときですね。コロナが流行してからは、施設や病院でもほとんどのイベントが中止になったようです。気軽に外出できない、イベントもほとんどない状況で、訪問理美容が唯一のイベントになっている施設も少なくありません。利用者さんはもちろん、施設のスタッフさんも楽しみにしてくださっています。

愛用のシザー(はさみ)

(中川さん)また訪問美容の日を楽しみにしているご家族の方もいて、「カットしているときにビデオ通話をしてほしい」と頼まれることも!今はコロナがあって難しいですが、訪問理美容の日に合わせてお見舞いに来るご家族の方もいました。20年近く同じ施設に施術へ伺っていると、次第にご家族と仲良くなる施術者もいます。美容師に会うことを楽しみにしてもらえるのも、ありがたいですよね

印象に残っている出来事はありますか?

(中川さん)長く闘病されていた60~70代の女性を担当したときです。「久しぶりに調子が良くなったから髪を切ってもらいたい」とリクエストを受けました。約2年ぶりのカットで、涙を流して喜んでいただけたんです。

シザーで髪を切る音を聞くと、「生きている感覚」がするのかもしれません。事情を聞くと「一度は病気で髪が抜けてしまい、ようやく伸びてきた髪をきれいに整えられてうれしい」とおっしゃっていました。いくつになっても女性にとって「髪は命」ですからね。

今後の目標を教えてください

(中川さん)今できていることに満足しないようにしたいです。次々と新しい道具が出てきますから、新しいものをうまく取り入れながら、技術も向上させていきたいですね。最近は理容師が減っているので、男性のカットもうまくなりたいと思っています。

これから訪問美容師を目指したい方、興味がある方へのメッセージをお願いします

(中川さん)訪問美容に興味がある方は、ぜひ来てほしいです!美容院にいるように施術できないのが難しい点ですが、工夫してやるのは面白いですよ。利用者さんから感謝されると心が温まりますし、「良いことができた」と大きな充実感が得られます。

誰もが必ず年を取り、いずれは訪問美容が必要になるときが来るでしょう。今後、訪問美容の需要はもっと増えていくと思います。訪問美容に興味がある方は、まずチャレンジしてみてはどうでしょうか?

一般的な美容室ではできない貴重な体験ができます。働き方でいえば、基本的には土日休みで、施設の夕飯の時間までには必ず終わるので、夜遅くまで働く必要もありません。また現場から直行直帰なのも魅力です。

これから訪問美容師が増えれば、利用者さんや地域の高齢者の方も気軽にサービスを利用できますよね。理美容師の資格を既に持っている方なら、ぜひ訪問美容に挑戦してほしいです。

訪問美容師に求める人材像は?

(中川さん)病気や障害のある方も多いので、心のこもった対応ができる、人の痛みが分かる方に来てもらいたいです。あとは、前向きで明るい方でしょうか。ビューティヘルパーでは、ベテランが付き添って指導します。技術面で不安があっても繰り返し練習していけば上達するので、大丈夫です。

中川さんのインタビューを終えて

「不自由な環境で工夫してやるのが面白い」と語る中川さん。訪問美容ならではの難しさも前向きに捉えて取り組む姿が印象的でした。美容院に行ったあとは、気分も軽やかになりますよね。髪型を整えることは、心を整える役割もあると考えられます。今後、需要が増していく訪問理美容。理美容サービスで、利用者さんの髪と心を整えるお仕事をしてみませんか?

【美容・理容の訪問業務 ビューティヘルパー広島ステーション】

所在地広島県広島市佐伯区観音台3丁目5-1
電話番号0120-05-7808
公式サイトhttp://beautyhelper-h.com/

この記事をシェアする