見当識障害の対応方法は?起こりやすいトラブルや予防法もチェック!

認知症の早い段階で現れる症状の1つに「見当識障害」があります。これは時間や場所、人に対する認識があいまいになる状態で、認知症の方であれば誰にでも現れる症状です。進行すると徐々に日常生活にも支障をきたすため、周りの方のサポートが重要となります。そこでこの記事では、見当識障害への対応法や予防法などについてご紹介。介護職が知っておきたいポイントを解説していきます。

見当識障害とは?

見当識障害とは、時間や場所などの認識があいまいになる、認知症の症状の1つです。認知症は大きく分けると、誰にでも現れる「中核症状」と、そこから引き起こされる二次的な「周辺症状」に分けられます。見当識障害は中核症状の1つのため、認知症の症状が現れた場合は誰にでも現れる症状です。

見当識障害の症状

見当識障害は、一般的に「時間」の感覚が薄れることから始まります。約束の時間に合わせた行動や日付の認識、季節に合わせた服装を選ぶことなどが難しくなるでしょう。進行すると、次は「場所」の感覚が薄れていきます。家の近所であっても道に迷ってしまい、帰れなくなってしまう方も少なくありません。さらに症状が進むと「人」に関する記憶があいまいになっていきます。たとえ目の前にいて話していたとしても、実際は誰と話しているか分からない状態となっているのです。このように、見当識障害では目の前のできごとが正しく認識できなくなりトラブルになることもあるため、周囲の理解と適切な対応が必要となります。

見当識障害の原因

見当識障害は、認知症の方であれば誰にでも現れる症状です。症状が現れる原因はそれぞれの認知症に由来します。例えば、アルツハイマー型認知症の場合は、アミロイドβと呼ばれるたんぱく質が脳に蓄積することが原因です。また、見当識障害が目立ちやすいレビー小体型認知症の場合は、レビー小体と呼ばれるたんぱく質が影響しています。このように、症状の出方は同じでも、発生原因は認知症の種類によって異なるのです。

見当識障害で起こりやすいトラブル

時間や場所、人の認識があいまいになる見当識障害は、少しずつ日常生活に支障をきたすようになります。具体的には次のようなトラブルが起こりやすいでしょう。

  • 約束の時間が守れない、遅れてしまう
  • 朝と夜の区別がつかず夜中に電話をかけてしまう
  • 店が開いていない夜中に買い物に出かけようとする
  • 近所であっても迷子になってしまう
  • 歩いていけるはずのない場所を目指して出かけようとする

見当識障害の対応方法

見当識障害は、症状が現れている方はもちろん、介護する側にも大きなストレスとなります。そのため、適切な対応方法を知り、接し方にも工夫を加えることが大切です。ここでは具体的な対応方法について見ていきましょう。

見当識障害の症状を理解して冷静に対応する

見当識障害が現れていると、いつも介護をしている方のことを侵入者と感じるなど、ときに相手の心を傷つけるような発言を繰り返します。そのため、介護にあたる方も穏やかな気持ちではいられないことが少なくないでしょう。しかし、当事者の方もわざと言っているわけではないため、怒ったり否定したりしないよう冷静に対応することが大切です。見当識障害の症状であることを認識し、振り回されずに対応していきましょう。

環境の変化をできるだけ少なくする

見当識障害を持つ方は、環境の変化に柔軟に対応することが難しい傾向があります。そのため、介護施設へ入所される方には、使い慣れている家具や思い出の品を持ってきてもらうよう声かけをすると、環境の変化を軽減できるでしょう。また、入所当初は「これから自分の住む場所である」と理解できない方も少なくありません。この際、「ここはあなたの家になる場所です」と説得するよりも、まずは安心できる場所であると認識してもらえるよう配慮することが大切です。

体調に気を配る

季節に合った服を選べなくなることも、見当識障害の症状の1つです。そのため、体調にも十分気を配るような対応が必要となります。この際、できるだけ当事者の方の気持ちを否定しない言い方を心がけることが大切です。

【例】

「今日は暑いから、その服はダメですよ」✕

  ↓

「涼しい服にしてみませんか?これがとても似合いそうです」

また、エアコンの温度調整などにもさりげなく気を配りながら、体調を崩さないよう配慮していきましょう。

見当識障害のリハビリ方法

見当識障害は脳のリハビリを行うことで、進行を遅らせたり現状を整理して不安を軽減させたりする効果が期待できます。ここでは、具体的な方法について見ていきましょう。

時間や季節を意識した会話を心がける

見当識障害は、時間や場所、人への認識があいまいになります。そのため、これらを意識した会話を心がけるとリハビリ効果が得られやすいでしょう。この方法は「24時間リアリティ・オリエンテーション」とも呼ばれており、具体的には次のような会話を意図的に投げかけていきます。

【声かけの例】

食事前「時計の針が12時を指していますね。お昼ご飯を食べましょう」
散歩中「桜が満開です。春になりましたね」
面会時「○○さんの息子の○○さんが会いに来ていますよ」

このように、会話の中に時間や季節、人の情報を意識的に取り入れることがポイントです。この他、朝日を浴びられるようカーテンを開けたり、植物の世話をしたりなど五感を活用していくことも有効でしょう。

失敗を減らすサポートをする

見当識障害は、当事者の方も自分の状態を自覚しており、不安や焦りを抱いていることが少なくありません。そのため、失敗をできるだけ減らすような対応を心がけることで、自尊心を傷つけずに気持ちを整理してもらうことができるでしょう。例えば、トイレの場所が分かりやすいよう目立つ印をつけたり、定期的にトイレに誘う声かけしたりすると失敗を軽減し不安を和らげます。介護職の方のことを誰か思い出せない様子であれば「○○さんの身の回りのお手伝いをしている○○です」と自分から伝えても良いでしょう。さりげなく手助けをすることで、不安や焦りから解放するサポートが可能です。

記憶を補うようなアプローチを取り入れる

さまざまな記憶があいまいになってしまう見当識障害には、記憶を補うような対応も有効です。例えば、家族写真などを見ながら「この方は○○さんの息子さんですね」「この写真の場所は京都でしょうか?」など、思い出を引き出すようなアプローチをしても良いでしょう。また、当事者の方と一緒にその方の自分史年表を作っておくと、記憶を思い出す手がかりとなります。「記憶があいまいになってしまっても大丈夫」と思える安心感を少しずつ増やすことが大切です。

見当識障害の適切な対応を知って利用者さんをサポートしよう!

見当識障害は、認知症の方であれば誰にでも現れる症状です。そのため、適切な対応方法を知っておけば、利用者さんにこれらの症状が現れたときも冷静に対応できるでしょう。また、毎日のコミュニケーションを工夫することで症状の進行を緩やかにすることも可能です。この機会に見当識障害への理解を深め、日々の業務に活かしてみてはいかがでしょうか。

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