ノーマライゼーションの理念とは?介護スタッフが知るべき考え方

ノーマライゼーションは、主に障がい者の自立と社会参加の促進を図ることを目的とした理念ではありますが、高齢の方に接する場合にも必要です。また、介護現場に関わらずすべての方が心に留めておきたい概念でもあります。では、ノーマライゼーションの理念とはどういうものなのでしょうか?実は介護職員初任者研修でも学ぶ内容であり、介護スタッフは必ず理解しておきたい理念です。そこで今回は、ノーマライゼーションの理念や問題点などを見ていきましょう。

ノーマライゼーションとはどういう理念なのか?

まずは、ノーマライゼーションがどういう理念なのか、また提唱者や歴史についても紹介します。さらに、介護現場におけるノーマライゼーションについても考えていきましょう。

ノーマライゼーションとは?

そもそもノーマライゼーションとは「障がいがある方もない方も同じ生活と権利が保障される社会や環境を目指す」という考え方を指します。ノーマライゼーションについては、厚生労働省でも推進しており、日本に限らず世界各国で提唱されていることです。

また障がいがある方だけが対象ではなく、年齢や心身の状態に関係なくすべての方が目指すべき理念であるとも言われています。

ノーマライゼーションの歴史

ノーマライゼーションの理念は、1950年代にデンマークで生まれました。その頃デンマークでは、知的障がいを持った子供が非人間的な扱いを受けており、その親たちが「知的障がい児親の会」を結成。

知的障がい児親の会のなかで掲げられたスローガンをきっかけに、エルス・エリク・バンク=ミケルセンがノーマライゼーションの理念を提唱しました。

1951年に始まった運動は実を結び、1953年には「知的障がい者福祉政策委員会」が設置されます。1959年には「知的障がい者福祉法」が成立し、世界に先駆けてノーマライゼーションという言葉を用いました。

その後ノーマライゼーションの理念は世界に広まり、1980年代以降に日本の社会福祉においても導入するようになったのです。

介護現場におけるノーマライゼーションとは?

ノーマライゼーションの理念は、介護現場でも必要になります。主役は利用者さんです。まずは利用者さんがどのような生活を希望しているのか、また生きづらさを抱えていないかなどを考えてみましょう。

実際に利用者さんにヒアリングして気持ちを聞くことも大切です。そしてノーマライゼーションの理念をもとに、利用者さんを取り巻く環境を整えていきましょう。

介護スタッフには、利用者さんが望む環境を整備してサポートする役割があります。介護現場では、ノーマライゼーションの理念は必要不可欠なものと言えるでしょう。

ノーマライゼーションの8つの原理

当たり前の日常を送るために、ベンクト・ニィリエが「ノーマライゼーションの8つの原理」を提唱しました。どういった原理があるのか見ていきましょう。

  • 1日のノーマルなリズム
  • 1週間のノーマルなリズム
  • 1年間のノーマルなリズム
  • ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験
  • ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
  • ノーマルな性的関係
  • ノーマルな経済水準とそれを得る権利
  • ノーマルな環境形態と水準

朝起きたら身支度をして食事をするなどの1日のリズムを大切にし、1週間単位や1年単位での変化を楽しむことはごく当たり前のことです。

もっと広い目で見ると、人が誕生して死ぬまでの過程においてもさまざまな経験を積んで身も心も成長していきます。そういった当たり前のことを誰もが当たり前にできる環境にすべきだと提唱しているのです。

個人の尊厳や決定を大切にしながら、他者との交流を持つことも含まれます。すべての方に社会保障を受ける権利があり、経済的な安定の確保や自分が望む環境に住まいを構えることも当たり前に行われなければならないのです。

介護現場ではノーマライゼーションの考え方を意識

「ノーマライゼーションの8つの原理」は子供も大人も意識すべきことですが、介護現場でも必要な考え方です。介護現場でノーマライゼーションの考え方を意識するとどんなことができるのでしょうか?具体例を紹介します。

例えば、介護施設に入居されている利用者さんの場合、寝衣のまま1日を過ごすことも。ノーマライゼーションの理念を意識すれば、朝起きたら「着替えて朝食を摂る」と行動したほうが自然です。

もちろん利用者さんが望まなければ意味がありませんが、おしゃれを楽しむことで気持ちが前向きになれる方もいるでしょう。また「今日はどの服を着ましょうか?」や「上の服がこのデザインならズボンはこちらも良いかもしれませんね」などと会話を楽しむこともできます。

他にも、施設で使う食器はプラスチックなどの割れにくいものを使っているケースもあるでしょう。落としたり割れたりしたときのことを考えれば、割れにくいものを使用することが適切です。

しかし利用者さんの立場に立って考えた場合、果たして納得できるでしょうか?プラスチック製の食器だと食事が楽しめないという方もいるはずです。

万一に備えて介護スタッフが見守りや介助に入ることで、利用者さんに合った食器を使うことは可能になります。できるだけ当たり前の生活を続けられるようにサポートすることが介護スタッフの役割と言えるでしょう。

ノーマライゼーションの問題点

最後にノーマライゼーションの問題点について紹介します。主な問題点は以下の通りです。

  • 言葉が浸透していない
  • 国の取り組みが不十分

日本におけるノーマライゼーションの理念の導入は、世界各国と比べて遅かったこともありますが、まだまだ言葉が一般的に浸透していません。また国の取り組みでも、障がいを持った方へのノーマライゼーションが中心です。

これから高齢化がますます進む日本では、介護を必要とする方も増えるでしょう。利用者さんの満足度を高めるには、ノーマライゼーションの理念に基づいたサービス提供が欠かせなくなるかもしれません。

介護分野にもノーマライゼーションの浸透を

介護現場にて、当たり前の日常を当たり前に提供することは難しいものです。しかしサポートや声がけで、利用者さんの心がパッと晴れることもあります。利用者さんがどうしたいと思っているのかを質問すると介護サービス向上のヒントを見つけられるかもしれません。ノーマライゼーションの理念を学んで、介護サービスのなかで積極的に実践していきましょう。

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